時局講演会 2009年
2009年10月15日
同窓会主催による恒例の時局講演会が、2008年11月28日(金)、日本電子専門学校7号館にて開かれました。毎年秋に各界の著名人や専門家をお招きするこの時局講演会は、業界の動向や今後の展望、経営哲学等々、企業人に必要な知識・教養・資質などを学べる場として、毎回ご好評をいただいています。
今回は、長年にわたり著作権保護の問題に取り組んでおられる.コンピュータソフトウェア著作権協会専務理事・事務局長の久保田 裕氏が、多忙なスケジュールを割いて講師を務めてくださいました。
久保田氏は、1988年に㈳日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会入局以来、ソフトウェアやデジタルコンテンツの著作権問題に取り組まれ、㈳コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の設立にも貢献、以来、著作権保護の専門家として活躍されています。
今回の講演テーマは『デジタルネットワーク社会と知財ビジネスを考える』。ACCS の活動内容の解説を中心に、デジタルコンテンツの不正コピーの実態や、情報モラルの普及・啓発の重要性について熱く語られました。以下、講演の要旨をご紹介します。
デジタルネットワーク時代に入り、誰でもデジタル情報を簡単に入手できるようになりましたが、同時に、入手した著作物に対するモラルの著しい低下が問題となっています。
たとえば我々ACCS が今年8月に行った調査によると、任天堂DS ソフトと思われるファイルが、約276,000もダウンロード可能な状態となっていました。これを金額に換算すると、なんと約59億円の被害相当額といえます。
また、ご承知のように日本のアニメは海外で高く評価されていますが、人気アニメの違法コピー、つまり海賊版は海外で野放し状態になっているといっても過言ではありません。イタリアなどはコピー天国で、我々が現地で調査したところでは、ごく普通の街の販売店で、スタジオジブリの作品をはじめ著名なアニメの海賊版が堂々と売られており、店によっては本物が一枚も置いてないところもあるといった驚くべき現状があるわけです。
さすがに我々も黙っているわけにはいかなくて、向こうの警察に不正業者の摘発をお願いするとともに、日本のアニメやゲームソフトなどのコンテンツの海賊版に関する相互協力について現地の著作権管理団体である「イタリア著作者出版者協会」(SIAE)と合意を締結することが出来ました。
しかし、そこであらためて考えさせられたのは、我々日本人は、自分たちの著作物に対する権利の主張が実に弱いということ。イタリア当局の言い分によれば、日本から著作権侵害に関してもっと強く指摘してくれば、もっと早く摘発したのに、何も言ってこないから、とのことです。これは大いに反省すべきことでしょう。これからは官民ともに、一人ひとりが著作権保護に関して認識を深めていかなければならないと思います。
市民レベルで知的財産を尊重する文化を育もう
デジタル情報化社会の健全な発展のためには、単にルールをつくるだけでなく、「情報モラル」の普及と啓発が不可欠です。著作権や特許権などいわゆる知的財産権には、多くの法律が関係していますが、これらは言うまでもなく「ルール」であり、基本的には強制力があり、違反すれば罰則が科せられるものです。
一方モラルとは、健全で道徳的なふるまいや行動の指針であり、人々が快適に生活するための心構え・知恵ともいうべきものです。強制力も罰則もありませんが、人間の多様性を尊重し、互いの存在を認め合う柔らかい部分なので、これがないと、すべてをルールで規制しなければならなくなり、社会には全く潤いがなくなる。ルールを守ろうとする気持ちはモラルに依るという点で、モラルの向上は極めて重要なものと言えるでしょう。
我々ACCS は、現在、自治体の職員や住民にソフトウェア管理やプライバシー保護などの情報管理を実践していただく目的で、『知的財産モラル都市宣言』運動を展開しています。これは、知的財産の創造・保護・活用と、知的財産を支えるモラルの醸成を国に依存するのではなく、自治体を中心とする地域において、市民レベルで知的財産を尊重する文化を育もうというもので、価値ある情報には対価を支払うのは当然である、と誰もが思う土壌をつくると同時に、この知的財産をベースに地域の活性化や新しい産業の創出を目指すという趣旨です。
既に川崎市でこの運動がスタートしており、知的財産モラルに立脚した新しい地域活性化策として期待されています。こうした運動が各地に波及することで、著作権者はもちろん著作物を利用する者も、一人ひとりが当事者であるという認識を持って知的財産を尊重するようになれば、社会全体の情報モラルの向上につながるでしょう。